IT受託・制作業の記帳で難しい3つのこと
契約・着手・納品・検収・入金がすべて別の月になるため、売上の計上基準を決めて継続する必要があります。期をまたぐ案件は仕掛品として原価を資産計上。個人外注の源泉徴収と給与認定も論点です。
難所は「売上をいつ計上するか」と「外注が給与認定されないか」です
受託開発・制作の記帳で最も問われるのは売上の計上時期です。契約・着手・納品・検収・入金がすべて別の月になるため、どの時点で計上するかを決めて継続する必要があります。期をまたぐ案件は仕掛品として原価を資産計上します。もう一つは個人のエンジニア・デザイナーへの支払——源泉徴収の要否と、給与認定のリスクがあります。
1. 売上の計上時期
| 基準 | 内容 | 使いどころ |
|---|---|---|
| 検収基準 | 顧客の検収完了時に計上 | 受託開発で最も一般的 |
| 納品基準 | 納品時に計上 | 制作物の引渡しが明確な場合 |
| 進行基準 | 進捗度に応じて期間配分 | 長期・大規模案件。要件を満たす場合 |
| 入金基準 | 入金時に計上 | 現金主義。原則として認められない |
2. 仕掛品(未完成案件の原価)
期末時点で完成していない案件にかかった原価は、費用ではなく資産です。
- 外注費 — その案件のために支払った分
- 労務費 — 自社エンジニアの人件費のうち、その案件に従事した分
- 直接経費 — サーバー費用、素材の購入費など
原価だけ先に費用計上され、売上が翌期になると期をまたぐたびに利益がぶれます。案件ごとに原価を集計できる形にしておくと、この処理ができます。
3. 外注先への支払
| 相手 | 源泉徴収 | 備考 |
|---|---|---|
| 法人 | 不要 | — |
| 個人(デザイン・原稿) | 必要 | デザイン料、原稿料、イラスト |
| 個人(プログラミングのみ) | ケースによる | 報酬の性質で判定。デザイン要素を含むかで変わることがある |
さらに、常駐・専属で長期間働いてもらっている場合は給与認定のリスクがあります。指揮命令の有無、時間的拘束、用具の負担などで判定されます(業務委託への支払)。
4. SES・準委任契約の場合
人月単価で提供する契約では、作業した月に売上を計上します(役務の提供が完了しているため)。
- 月末締めで翌月請求でも、売上は作業月
- 常駐先の稼働報告書が根拠資料になります
- 期末月の作業分を計上し忘れると売上が漏れます
その他のIT・制作特有の処理
| 項目 | 処理 |
|---|---|
| 自社サービスの開発費 | ソフトウェア(無形固定資産)として資産計上する場合がある。受託と自社開発で扱いが違う(ソフトウェアの購入) |
| サーバー・クラウド利用料 | 通信費または支払手数料(クラウドサービスの月額利用料) |
| ドメイン・SSL | (ドメイン代・レンタルサーバー代) |
| ソフトウェアのライセンス | 金額と期間による。年払いは前払費用 |
| PC・開発機材 | 10万円未満は消耗品費(10万円前後のパソコン・備品) |
| 素材・フォントの購入 | 消耗品費または無形固定資産 |
| 海外SaaSの利用料 | 消費税の判定が必要(リバースチャージの対象になるものがある) |
| 研究開発 | 試験研究費。税額控除の対象になる場合がある |
自社サービスと受託の区分
両方やっている会社では、売上も原価も分けて把握してください。
- 受託は労働集約型、自社サービスはストック型で、採算構造がまったく違います
- 自社サービスの開発費を資産計上するかどうかで、利益が大きく変わります
- 部門を分けると、どちらで稼いでいるかが見えます
外注する場合の確認
- 売上の計上基準をどう設定するか
- 仕掛品の集計を誰が行うか
- 案件別の原価管理に対応できるか
- 個人外注への源泉徴収の判定ができるか
- 海外SaaSの消費税処理に対応できるか
選び方は記帳代行業者の選び方、費用は仕訳件数から試算できます。
この記事に関するよくある質問
受託開発の売上はいつ計上しますか?
検収基準が最も一般的です(顧客の検収完了時)。ほかに納品基準、長期案件では要件を満たせば進行基準もあります。入金基準は現金主義になり原則として認められません。契約書に検収の定めがあれば、それに沿った処理が説明しやすくなります。
期末に完成していない案件の原価はどう扱いますか?
仕掛品として資産計上します。その案件のために支払った外注費、自社エンジニアの人件費のうち従事した分、サーバー費用などの直接経費が対象です。原価だけ先に費用計上すると、期をまたぐたびに利益がぶれます。
個人のエンジニアやデザイナーへの支払は源泉徴収が必要ですか?
デザイン料や原稿料は必要です。プログラミングのみの場合は報酬の性質で判定が分かれ、デザイン要素を含むかで変わることがあります。さらに常駐・専属で長期間働いてもらっている場合は、指揮命令や時間的拘束の実態から給与と認定されるリスクがあります。