士業事務所の記帳で難しい3つのこと
最も間違えやすいのは、依頼者から預かった実費を売上に混ぜてしまうことです。預り金であって収益ではありません。源泉徴収された報酬の処理、案件別の採算管理も論点です。
難所は「預り金と報酬の区別」と「源泉徴収」です
士業事務所の記帳で最も間違えやすいのは、依頼者から預かった実費(登録免許税・印紙代・登記手数料など)を売上に混ぜてしまうことです。これらは預り金であって収益ではありません。混ぜると売上高が実態より大きくなり、消費税の申告にも影響します。もう一つは自分が受け取る報酬から源泉徴収されている場合の処理です。
1. 預り金と報酬を分ける
| 性質 | 科目 | 例 |
|---|---|---|
| 自分の報酬 | 売上高 | 手続報酬、相談料、顧問料 |
| 依頼者に代わって払う実費 | 預り金(負債) | 登録免許税、収入印紙、証明書の発行手数料、公証人手数料 |
| 自分が負担する経費 | 費用 | 交通費(報酬に含める契約なら売上に含める) |
2. 源泉徴収されている報酬の処理
士業への報酬は、支払う側に源泉徴収の義務があります(相手が法人の場合など例外あり)。
| 項目 | 金額の例 |
|---|---|
| 請求額(報酬) | 100,000円 |
| 源泉所得税 | △10,210円 |
| 実際の入金 | 89,790円 |
売上は100,000円で計上し、差し引かれた源泉税は「仮払税金」等で資産計上します。入金額89,790円を売上にすると、売上が過少になり、かつ確定申告で源泉税を精算できません。
年末に受け取る支払調書と、自分の帳簿の源泉税額が一致しているかを必ず確認してください。
3. 案件別の採算管理
士業は「時間」が原価です。案件ごとの採算を見るには、売上を案件別に把握し、かけた時間を記録する必要があります。
- 会計ソフトの部門・プロジェクト機能で案件別に売上を分ける
- 作業時間を記録する(簡易なもので構いません)
- 1時間あたりの売上を計算する
- 「この種類の仕事は割に合わない」を数字で把握できます
4. 顧問料と時間制報酬
| 形態 | 計上のポイント |
|---|---|
| 月額顧問料 | 役務提供月の売上。前受けなら前受金 |
| 着手金 | 役務提供前なら前受金。受け取った時点で売上にしない |
| 成功報酬 | 成果が確定した時点 |
| タイムチャージ | 作業した月に計上(請求が翌月でも) |
| 年払いの顧問料 | 期間対応。期をまたぐ分は前受金 |
その他の士業特有の処理
| 項目 | 処理 |
|---|---|
| 登録料・会費 | 諸会費(商工会議所・同業者団体の会費) |
| 賠償責任保険 | 保険料 |
| 専門書籍・判例データベース | 新聞図書費(新聞・書籍・雑誌の購読料) |
| 研修・研究会 | 研修費 |
| 業務システム | ソフトウェアまたは支払手数料(クラウドサービスの月額利用料) |
| 外注(他士業への依頼) | 外注費。相手が個人なら源泉徴収 |
| 電子証明書 | 支払手数料 |
| 依頼者からの預り書類 | 資産計上はしない。ただし管理台帳は必要 |
個人事務所と法人化
売上規模が大きくなると法人化が検討されますが、記帳の観点では次が変わります。
- 所長への支払が事業主貸から役員報酬に(損金になる)
- 期中の役員報酬の変更が原則できなくなる
- 生活費の引き出しができなくなる(役員貸付金になる)
- 申告が所得税から法人税に
外注する場合の確認
- 預り金と報酬の区分をどう管理するか
- 源泉徴収された報酬の処理に対応できるか
- 案件別の管理が必要か
- 守秘義務 — 依頼者の情報を扱うため、秘密保持の条項は特に重要です(経理代行の契約前に確認する契約書の条項)
士業事務所は依頼者の機微な情報を扱うため、再委託の有無と作業場所の確認を怠らないでください。選び方は記帳代行業者の選び方、費用は仕訳件数から試算できます。
この記事に関するよくある質問
登録免許税や印紙代は売上に含めますか?
含めません。依頼者に代わって支払う実費は預り金(負債)です。売上に混ぜると売上高が実態より大きくなり、これらは不課税・非課税のものが多いため消費税の課税売上も過大になります。請求書の段階で「報酬」と「実費」を分けて表示してください。
源泉徴収された報酬はどう記帳しますか?
請求額の総額を売上として計上し、差し引かれた源泉税は仮払税金などで資産計上します。入金額を売上にすると売上が過少になり、確定申告で源泉税を精算できません。年末に受け取る支払調書と帳簿の源泉税額が一致するか確認してください。
着手金は受け取った時点で売上ですか?
役務を提供する前なら前受金です。提供が完了した時点で売上に振り替えます。月額顧問料も役務提供月の売上とし、年払いで期をまたぐ分は前受金として処理します。