経理が1人しかいない会社が休職・退職に備える方法
備えるべきは後任の確保ではなく「その人がいなくても止まらない状態」です。アクセス権を会社が持つ・期限の一覧を作る・入力を外に出して型を社外にも残す。この3つで突然の休職でも月次は続きます。
備えるべきは「その人がいなくても止まらない状態」であって、後任の確保ではありません
経理が1人の会社で本当に危ないのは、辞めることそのものではなく支払・申告・給与という「止まると実害が出るもの」が、その人の頭の中にしかないことです。備えは3つだけで足ります。①アクセス権を会社が持つ ②期限の一覧を作る ③入力を外に出して型を社外にも残す。この3つがあれば、突然の休職でも月次は続きます。
何が止まると実害が出るのか
| 業務 | 止まったときの実害 | 猶予 |
|---|---|---|
| 給与の支給 | 従業員の生活に直結。労働基準法上の問題にもなる | なし |
| 買掛金・未払金の支払 | 取引先の信用を失う。仕入が止まることもある | なし |
| 源泉所得税の納付 | 不納付加算税・延滞税 | 翌月10日 |
| 社会保険料の納付 | 延滞金 | 翌月末 |
| 売掛金の請求 | 入金が1か月遅れる=資金繰りに直撃 | 締日まで |
| 申告(法人税・消費税) | 加算税・延滞税・青色取消しのリスク | 決算日から2か月 |
| 記帳の入力 | 直接の実害は無い | 決算まで |
記帳そのものは、実は最も猶予がある業務です。止めてはいけないのは支払と申告。備えるべき対象を取り違えないでください。
備え1:アクセス権を会社が持つ
担当者の個人アカウントだけで運用していると、その人が来なくなった瞬間に何も見られなくなります。
- 会計ソフト — 代表者または役員を管理者に入れる。クラウド型なら数分で設定できます。
- ネットバンキング — 管理者権限は会社が持ち、担当者には必要な権限だけ付与する。
- 契約者のメールアドレス — 個人のアドレスではなく
info@など法人の共有アドレスにする。 - e-Tax・eLTAX — 利用者識別番号と暗証番号を会社の管理下に置く。
備え2:期限の一覧を作る
紙1枚で足ります。誰が見ても「今月何をすべきか」が分かる状態を作ります。
| 時期 | やること |
|---|---|
| 毎月10日 | 源泉所得税の納付(納期の特例なら7/10・1/20) |
| 毎月末 | 社会保険料の納付、請求書の発行、支払 |
| 年1回 | 決算・申告(決算日から2か月)、年末調整(12月)、法定調書・給与支払報告書(1/31)、償却資産申告(1/31)、算定基礎届(7月)、労働保険の年度更新(6〜7月) |
| 該当時 | 中間申告、賞与の届出、従業員の入退社手続き |
加えて、定期的な引き落としの一覧(家賃・リース・保険・サブスク・借入返済)も作っておきます。誰も知らない支払で残高が不足する事故を防げます。
備え3:入力を外に出して、型を社外にも残す
最も効果が大きい備えです。記帳の入力を外部に出しておくと、次のことが起きます。
- 処理の型が社外にも残る — 科目の使い方、摘要の書き方、月次の締め方が、担当者の頭の外にあります。
- データが二重に存在する — 社内のPCが失われても、外部に同じデータがあります。
- 月次で第三者の目が入る — 誤りが数年放置されることがなくなります。
- 担当者が代わっても、入力の品質が変わらない — 引き継ぎの負荷が大幅に下がります。
費用の比較で言えば、経理1名の実質コストは月およそ29万円(給与22万円+賞与3.7万円+社会保険料の会社負担3.3万円)です。記帳の外注は仕訳件数によりますが、はるかに小さい金額で収まります。仕訳件数から試算できます。
担当者が1人のままでもできること
すぐに外注できない場合でも、次の3つは今日から始められます。
- 月次の締めで残高を照合する — 通帳残高と帳簿残高が一致していれば、その月までは誰でも引き継げます。
- 摘要を具体的に書く — 「経費」ではなく「◯◯商事 8月分請求」と書けば、後任が内容を追えます。
- やったことを日付で記録する — 手帳でもExcelでも構いません。「何月何日に何を提出した」が残っていれば、引き継ぎ資料になります。
それでも突然いなくなったら
備えが無い状態で辞められた場合の手順は、経理担当者が辞めた直後の7日間にやることと引き継ぎ資料が無いまま辞められたときの復旧手順にまとめています。会計ソフトの仕訳履歴からかなりの部分を復元できるので、まずは落ち着いてください。
無料の経理引き継ぎチェックリストも配布しています。優先度A・B・Cで並べてあるので、Aの8項目だけ先に埋めておくだけでも備えになります。
この記事に関するよくある質問
経理が1人の会社で、まず何に備えるべきですか?
止まると実害が出るものから備えます。給与の支給、買掛金の支払、源泉所得税の納付(翌月10日)、社会保険料(翌月末)、売掛金の請求です。記帳の入力は決算までに追いつけばよいため、実は最も猶予があります。備える対象を取り違えないでください。
担当者の個人アカウントで会計ソフトを使っていますが問題ありますか?
その人が来なくなった瞬間に何も見られなくなります。代表者または役員を管理者に入れ、契約者のメールアドレスも法人の共有アドレスに変更してください。不信の問題ではなく事故への備えで、担当者本人にとっても休みやすい体制になります。
外注すると備えになるのはなぜですか?
処理の型が社外にも残るためです。科目の使い方・摘要の書き方・月次の締め方が担当者の頭の外にあり、データも二重に存在します。月次で第三者の目が入るため、誤りが数年放置されることもなくなります。