会計帳簿の記載義務(会社法432条)
記帳は税務のためだけでなく会社法上の義務です。「適時に、正確な会計帳簿を作成しなければならない」という条文があるため、決算月にまとめて1年分を入力する運用は条文の趣旨から外れます。過料の定めもあります。
記帳は「税務のため」だけでなく、会社法上の義務です
会社法432条1項は「株式会社は、適時に、正確な会計帳簿を作成しなければならない」と定めています。税務申告のためではなく、会社であること自体から生じる義務です。「赤字だから」「小さい会社だから」は理由になりません。「適時に」という文言があるため、決算月にまとめて1年分を入力する運用は、条文上は適切とは言えません。
条文
| 条文 | 内容 |
|---|---|
| 会社法432条1項 | 株式会社は、法務省令で定めるところにより、適時に、正確な会計帳簿を作成しなければならない |
| 会社法432条2項 | 会計帳簿の閉鎖の時から10年間、その会計帳簿および事業に関する重要な資料を保存しなければならない |
| 会社法435条 | 各事業年度に係る計算書類(貸借対照表・損益計算書等)を作成し、10年間保存しなければならない |
| 会社法976条7号 | 帳簿・書類の記載をせず、または虚偽の記載をした場合、100万円以下の過料 |
誰のための義務か
税務のための記帳と、会社法上の記帳では目的が違います。
| 法律 | 目的 | 主な受益者 |
|---|---|---|
| 会社法 | 会社の財産状況を正しく把握し、株主・債権者を保護する | 株主、債権者、取引先 |
| 法人税法 | 正しい課税所得を計算する | 国(課税の適正化) |
| 金融商品取引法 | 投資家に正確な情報を開示する(上場企業等) | 投資家 |
一人株主の会社でも義務は変わりません。会社は株主とは別の法人格なので、その財産状況を記録する義務が生じます。
「適時」とはどのくらいか
条文に具体的な日数の定めはありません。ただし実務上の目安として、次のように考えられています。
- 月次で締める — 翌月中に前月分の記帳が完了している状態が一つの目安です。
- 証憑の発生から著しく遅れない — 数か月前の領収書がまだ入力されていない状態は、適時とは言えません。
- 残高が確認できる — いつでも現在の財産状況が分かる状態であること。
裁判例では、記帳が適時になされていないことが、取締役の善管注意義務違反や、粉飾決算の認定の根拠として扱われた例があります。
実務で問題になる場面
| 場面 | 何が起きるか |
|---|---|
| 金融機関の融資審査 | 月次試算表の提出を求められる。出せない会社は評価が下がる |
| 株主からの帳簿閲覧請求 | 会社法433条により、一定の株主は会計帳簿の閲覧・謄写を請求できる。応じられないと紛争になる |
| 取締役の責任 | 正確な財産状況を把握せずに経営判断をしたことが、善管注意義務違反と評価される可能性 |
| M&A・事業承継 | デューデリジェンスで帳簿が精査される。整っていないと評価額が下がる、または破談になる |
| 税務調査 | 帳簿の不備は青色申告の取消し事由にもなる(青色申告の承認が取り消されるケース) |
保存期間は10年
会社法は会計帳簿と重要な資料を10年保存することを求めています。法人税法の原則7年より長いため、実務では10年で統一するのが安全です(帳簿の保存期間と保存方法)。
個人事業主の場合
会社法は適用されませんが、所得税法により帳簿の備付け・記録・保存が義務づけられています。青色申告なら複式簿記による記帳が要件です(個人事業主・フリーランスの記帳と確定申告)。
まとめると
記帳は「申告のときに必要だからやる作業」ではなく、会社を運営していること自体から生じる継続的な義務です。そして毎月回っていれば、決算も融資も承継も、すべてが楽になります。
社内で毎月回せない場合、入力を外に出す形にすれば「適時」の要件を満たしやすくなります。判断が必要な取引だけ税理士に上げる運用にすれば、止まりません。仕訳件数から費用を試算できます。
この記事に関するよくある質問
赤字でも記帳の義務はありますか?
あります。会社法432条1項は「株式会社は、適時に、正確な会計帳簿を作成しなければならない」と定めており、税務申告のためではなく会社であること自体から生じる義務です。赤字であること、会社が小さいことは理由になりません。
「適時に」とはどのくらいの頻度ですか?
条文に具体的な日数の定めはありませんが、実務上は翌月中に前月分の記帳が完了している状態が目安です。数か月前の領収書がまだ入力されていない状態や、年に1回まとめて入力する運用は、条文の趣旨から外れています。
記帳をしていないと罰則はありますか?
会社法976条7号に、帳簿・書類の記載をせず、または虚偽の記載をした場合の100万円以下の過料の定めがあります。ただし実務上より大きいのは、融資審査で月次試算表を出せない、株主の帳簿閲覧請求に応じられない、青色申告の取消し事由になるといった影響です。