仕組みの解説 ・ 約6分

ChatGPTに経理を任せてはいけない理由

危険なのは間違えることではなく、もっともらしく間違えることです。自社の事実を知らない、制度改正に追いつけていないことがある、データが外に出る——用途を限れば有用ですが、判断の根拠にはできません。

まず結論

危険なのは間違えることではなく、「もっともらしく間違える」ことです

汎用のチャットAIは経理の質問にも流暢に答えます。問題は自信のある口調で誤った回答をしても、こちらには見分けがつかないことです。加えて自社の状況を知らない制度改正に追いつけていない場合がある会計データを入力すると情報が外に出るという3つの問題があります。下調べには使えますが、判断の根拠にはできません

問題1:自社の事実を知らない

税務の判断は、ほとんどが「事実がどうか」で決まります。AIはその事実を知りません。

質問判断に必要な事実
この飲食代は経費になる?参加者、人数、目的、社外の人がいたか
この15万円のPCは?青色申告か、特例の枠が残っているか、当期の利益
この外注費は?指揮命令の有無、時間的拘束、用具の負担
消費税は課税?取引の実態、相手が登録事業者か

これらを伝えずに聞けば、AIは一般論を答えます。そして一般論は、自社に当てはまるとは限りません。

問題2:もっともらしく間違える

AIは分からないときも「分かりません」とは言わず、それらしい回答を生成することがあります。存在しない条文番号、実際とは違う金額基準、廃止された制度——これらが自然な文章で提示されます。

専門知識がない人ほど、誤りに気づけません。 「調べても分からないからAIに聞く」という状況では、返ってきた答えが正しいかを検証する手段がありません。ここが最も危険な構造です。

問題3:制度改正に追いつけていないことがある

税制は毎年変わります。AIの学習データがいつ時点のものかによって、古い制度で回答することがあります。インボイス制度、電子帳簿保存法、各種の特例——近年の改正が多い領域ほど、古い情報が返るリスクが高くなります。

問題4:会計データを入力すると情報が外に出る

取引先名、金額、従業員の給与——これらを入力すると、サービス提供者のサーバーに送信されます。設定によっては学習に使われる可能性もあります。

  • 顧客情報 — 取引先との守秘義務に触れる可能性
  • 従業員の給与 — 個人情報。安全管理措置が必要
  • 未公表の財務情報 — 資金繰り、赤字、借入の状況

詳しくは会計データをAIに渡すときのセキュリティにまとめています。

それでも使える場面

使ってはいけないわけではありません。用途を限れば有用です。

用途可否
用語の意味を調べる有用
制度の概要を掴む有用(ただし必ず一次情報で確認)
税理士に聞く前の下調べ有用。質問を整理できる
Excelの関数を書いてもらう有用
文書のたたき台を作る有用
個別の処理の判断根拠にする危険
申告書の内容を決める危険
実データを入力して仕訳させる情報漏えいのリスク

会計ソフトのAIとは別物です

freeeやマネーフォワードに組み込まれたAI機能は、汎用のチャットAIとは違います。

会計ソフトのAI汎用チャットAI
データの所在会計ソフト内(利用規約で保護)入力するとサービス側へ送信
参照するもの自社の過去の仕訳学習データ(一般的な知識)
出力仕訳の候補文章による回答
誤りの性質過去の履歴に引きずられるもっともらしい創作が混じり得る

会計ソフトのAI機能は業務に組み込んで使えます。ただし提案された仕訳が正しいかの確認は必要です(AI記帳はどこまで自動化できるのか)。

安全な使い方の原則

  1. 実データを入れない — 取引先名・金額・氏名を伏せて、一般化した質問にする
  2. 回答を一次情報で確認する — 国税庁のサイト、条文、通達
  3. 判断は人が下す — AIの回答は「調べる手がかり」として扱う
  4. 迷ったら税理士に聞く — 個別の判断は税務相談にあたり、そもそもAIが答えられる領域ではありません

そもそも何が税理士でなければできないかは無資格者ができる経理業務・できない業務にまとめています。AIも「無資格者」と同じ制約の中にあると考えると、線引きが分かりやすくなります。


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よくある質問

この記事に関するよくある質問

ChatGPTに経理の質問をしてもいいですか?

用語の意味を調べる、制度の概要を掴む、税理士に聞く前の下調べには有用です。ただし個別の処理の判断根拠にはできません。自社の事実を知らないため一般論しか答えられず、専門知識がないと誤りに気づけないためです。

会計ソフトのAIと汎用のチャットAIは同じですか?

違います。会計ソフトのAIはデータがソフト内で完結し、自社の過去の仕訳を参照して仕訳の候補を出します。汎用チャットAIは入力するとサービス側にデータが送信され、学習データにもとづく一般的な回答を返します。もっともらしい創作が混じることもあります。

安全に使うにはどうすればいいですか?

実データを入れない(取引先名や金額を伏せて一般化した質問にする)、回答を国税庁のサイトや条文で確認する、判断は人が下す、迷ったら税理士に聞く——この4つです。AIも無資格者と同じ制約の中にあると考えると線引きが分かりやすくなります。

経理を採用する前に、いくらで回るか確かめてください。

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